スーパーの経営戦略入門

2008年10月01日

算数を理解と経営戦略

スーパーマーケットに限らず、会社の営業活動の目的は、継続と発展です。その為には、お客様のお役に立つ、正しい商品やサービスを提供し続けなければなりません。

そして、その為の絶対条件は、営業利益を毎年(4半期・月)確実に出し続けることです。これは、当たり前のことですが、きちんと理解されていない会社が意外に多いものです。

先ず、ここのところがよく理解されていなければ、日々の営業活動において、間違った行動をやり続けることになります。非効率で、利益の出にくい、その場しのぎで場当たり的な行動では、長期の継続的な利益確保はできません。

対前年売上高伸長率(昨対比)と荒利益率ばかりに固執していれば、肝心の営業利益確保と増加に向かって、正しい行動がとれません。

売上が右肩上がりに上がった時代は、売上前年伸長率がプラスになるように活動すればよかった。しかし、もうそんな時代ではありません。スーパーマーケットの業態としてのライフサイクルは、成熟期に入っています。売上高が前年比90%や80%でも営業利益の出る体質に会社全体の仕組みやオペレーションを変えなければなりません。

■ 数値の理解

営業活動の方向性を決める上で重要になってくるのが、数値目標です。そして、各種の数値には、目的の数値と、それを達成するための手段(戦略)としての数値があります。
どの数値が目的で、どの数値が、手段なのかが良く理解されていなければなりません。

営業活動で目的にするのは、当然営業利益高です。その他の数値は、それを達成するための戦略上の手段や方法の数字です。
店舗や各部門において、このことが正しく理解できていれば、効果的で効率のよい行動、そして、素早い対応が取れます。

そして、適正な営業利益が出せるようになれば、次へのステップのための売り場改善や実験が可能になります。このような前向きの経営は、従業員の仕事に対するやる気も増し、相乗効果が期待できます。

■ 間違った行動

例えば、荒利益率を高くすることが目的になっている場合、青果部門で、定番の玉葱やじゃが芋などをアウトパックではなく、店内で袋詰めの加工をするというような行動を取るかもしれません。
売価は同じでも、バラの商品はアウトパックの商品より原価が安く、値入れ率は高くなり、荒利益率も高くなるでしょう。
しかし、人手(人時)が多くかかり、人件費が高くなってしまいます。また、結果的に限られた人時をルーチンの作業で使い果たし、付加価値の上がる売り場作りや販売計画などが出来なくなってしまいます。

上記の事例を部門で捕らえた場合、代表として惣菜部門があげられます。
野菜や魚、肉などを原料で仕入れ、包丁で皮むき、筋引きなどの下ごしらえをして、適度の大きさに切りそろえ、鍋やフライパンなどを使って過熱し、調味料を加えて調理します。

家庭では当たり前の事ですが、惣菜のバックルームでこれらをフルラインでやってしまうと基本的に儲かりません。
なぜなら、人件費と設備費、そして、広い厨房に大きなコストが掛かってしまうからです。多少荒利益率が高くても大きなコストを吸収できなくなるからです。

もう少し具体的にお話しすると、人件費は、調理だけに留まりません。調理後の多くの調理器具や設備の清掃、ゴミ処理、具材調達のための一連の作業など大きく膨らんでしまいます。

1店舗だけの繁盛店や営業利益は出なくても戦略部門としての位置づけであればそれはそれでいいのですが、そうでなければ改善が必要になってきます。

■ 手段、方法としての数値の理解

営業利益高を向上させる観点から、手段や方法としての営業利益以外の数値についてお話します。

1.売上高
  売上高は、品揃えやサービスという会社の営業活動に対する、お客様の満足指数です。当たり前の  商品が新鮮で、何時行っても品揃えしてあり、適正な価格であればお客様は買っていただけます。  ピカイチの鮮度で、作り方や提供方法にこだわった、美味しい商品であれば、少しくらい高くても喜ん  で買っていただけます。 

2.荒利益高
  荒利益高は、営業活動におけるコスト積み上げの結果としての数値であるともいえます。無駄なコス  ト、非効率なコストを多く使ってしまうと、荒利益率を上げざるを得なくなります。
  コストが競合他社より低く抑えることが出来れば、商品は安く提供することが出来ます。戦略的に   は、荒利益率を低く設定できます。売り上げ増に繋がり結果的にコストの構成比も下がる結果となり  ます。

3.人時売上高
  人時売上高は、店舗のオペレーション力とそれを支援する本部の物流や情報などのシステムの出   来栄えの結果といえるでしょう。
  基本的に高く出来ることが競争優位性を生みます。例外は、「あえてここにはこだわって、時間と手   間を掛ける」という戦略上の業務(作業)です。そのときの条件は、お客様から納得した支持が得ら   れる場合です。

4.人時生産性
  人時生産性は、人時売上高の実績数値に大きく左右されます。そして、営業利益に大きく関係する  数値です。スーパーマーケットの場合、コストの中で一番高いのが人件費です。ここの生産性が低   いか高いかは、営業利益を大きく左右します。
  不思議なことですが、人件費の高い現在、そして、労働集約型の業態であるスーパーマーケットに   おいて、この数値に無頓着な企業があまりにも多いことには驚かされます。

5.在庫高
  在庫高は、営業利益に直接は影響しませんが、不必要な在庫は、オペレーションの効率を低下さ   せ、人時売上高を大きく低下させます。また、会社の運営上、在庫過多は、キャッシュフローを悪化  させ、投資効率の低下や資金繰りを悪くします。
  特に、バックルームの停滞在庫や売り場の死に筋在庫には、要注意です。何の利益も生みません。

6.欠品率
  欠品率は、ここで取り上げるのは、発注に対してのものは論外として、売り場自体での欠品率です。  欠品が多くなる商品は、基本的に売れる商品です。売れる商品が度々欠品を起こすようでは、お客  様からの信用に関わります。そして、店舗にとっても、何の手間も無く、「有ったら売れたのに」という  大変もったいないことです。
  発注点やフェイシング、在庫数量の設定など、重点的に改善を行ない、早期の改善が必要です。

7.坪売上高
  坪売上高は、地代家賃に対しての生産性をはかる尺度と理解できます。しかし、これが極端に高す  ぎると、作業効率が低下し、人時売上高の低下を招きます。
  スーパーマーケットでは、コストの中で人件費が圧倒的に高いわけですから、人時売上高や人時生  産性に重点的に目を向けたほうが結果的に営業利益改善に繋がります。

8.回転日数(率)
  実地棚卸しを行なって、店舗や部門としての在庫金額と算出し、そこから導き出される数値として、  回転日数や回転日数が求められます。

  ここでの重要なポイントは、各種商品の鮮度との関係です。いうまでもなく、食品を品揃えの中心に  するスーパーマーケットの場合、商品の鮮度は命綱です。回転率が高い(回転日数が短い)というこ  とは、高鮮度を意味します。
  しかし、正しい理解が必要なのは、店舗や部門の回転日数(率)では、ほとんど意味を持たないとい  うことです。

  経理上は、ここまででいいのですが、現場のオペレーション上では、最低でも、カテゴリー別、基本   的には、単品別の在庫と回転日数(率)の管理が大切なのです。

  缶詰類などは、月単位管理で十分ですし、回転率が低い(回転日数が長い)ことが発注や補充作業  を減らすことが可能となり、人時生産性を押し上げる結果となります。
 
  一方、スーパーマーケットの戦略部門である生鮮部門では、日別、時間別の管理が競争優位性を   生みます。当然のこととして、回転日数は1日(回転率は365回)に近づくことが理想です。しかし、  ここで注意する必要があるのは、部門単位での管理では、駄目だということです。
  上述したように、単品別の管理が重要なのです。例えば青果部門の野菜売り場の場合、ほうれん   草などの葉物は、「朝仕入れて、夕方売り切り」が基本です。反対に、玉葱などの日持ちのする商品  の場合、2、3日分在庫を持って、陳列量を増やし、1日一回の品出しをするようにすれば、作業効率  が大幅にアップします。

  営業利益を注視する上で、日々「いくらの在庫金額を持って開店するか」という考え方が出来るとい  うことが重要です。

9.ロス率
  ロス率は、オペレーション上、商品ロスと計画(戦略)ロスとに分けて管理すると良いでしょう。そし   て、その管理が重要です。

  商品ロスは、現場で日々おこる値引きや廃棄のロス、歩留まりの低下などです。発注精度や加工技  術などの担当者のスキルと、汚損破損の発生、売り場における販売計画の修正など、様々な原因   で起こります。
  
  ここでの重要なポイントは、必要なロスが有るという考え方です。例えば、りんごを1000個売るの   に、1000個の陳列では、当初設定した売価×1000個分の売上は、上げられないということです。

  開店時は、ボリュームがあって目を引きますが、夕方に、色目が悪い、小傷のある売れ残りのりん   ごが数個転がった状態では、誰も見向きもしてくれません。
  これを「品切れ」といいます。物理的にものはあるのに売れない状態のことです。
  1000個分の売上を上げるためには、プラスアルファ数個の在庫と値引きロスが必要です。
    
  そのほか、商品が計画通りに売れなかった場合、夕方のタイムサービスなどで商品を売り切ること   は、非常に重要なロスです。
   ・最優先に、「鮮度のいい状態で商品をお客様にお渡しする」ということと、
   ・ロスを一時的な最低レベルに押さえ、次の日の売り場を充実させて、新たに売上を上げ、結果的    にロス率を低下させる
  ということが念頭に置いた、行動にあります。

  一方計画ロスは、試食販売や競合店対策などのように、戦略的に販売促進の位置づけとして、計上  するものです。
  特に、試食販売は、「商品の良さをお客様にお伝えする」という重要な作業ですから、有人で行い、   効果を最大化する必要があります。

■ 今後の方向性

算数が正しく理解されていなければ、「経費がいくら掛かるから、売上は1000万円以上なければいけない。粗利益率は25%なければいけない」という、積み上げ式の発想になります。これでは、この厳しい経営環境の中では商売になりません。思考停止状態です。

営業利益を改善するためには、データの共有化を経営層に留まらず、現場のチーフレベルまで広げ、全員の正しい理解と行動が必要です。

社員に「経営者意識を持たせる」というなら、具体的な実績数値を共有化することが、必須条件です。どのような会社でも、全員で改善のためのアイデアを出せるチームを持った会社は、発展の可能性が高いと思います。

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