スーパーの業務改善入門

2017年05月22日

スーパーの業務改善コンサルタントから視た『改正酒税法』で知って得すること

正酒税法が、この6月1日に施行されます。

「仕入れ原価と販管費の合計額を下回る販売のほか、周辺の販売事業者の売り上げ減などにつながった場合に罰する」というものです。

改正酒税法の施行については、
「企業の自由な価格競争を阻害する」という懸念がありますが、
「酒類の過度な安売りを防ぐため、量販店などに罰則を科す」
「小規模な酒店を守る」という取引基準の考え方には、個人的に賛成できます。

しかし、問題に思うのは、売価を決定するための基準となる、『販売管理費』の概念がかなり曖昧であり、販売店(企業)が、その額を正確に計算できるのかという疑問が有ります。

新聞の記事や税理士(コンサルタント)などの意見を聞いても、それを明確に答えているものが殆んどありません。

よって、営業戦略と現場のオペレーションの観点から、その中身を解説し、より良い販売管理費の算出に結び付けたいと思います。
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疑問が残る販売管理費



スーパーマーケット現場では、「販売管理費をどう求めたらいいのか分からない」という意見を多く聞きます。

元々、損益計算書を正しく理解している中小零細企業は少ないと言えます。
ですから、この場合の販売管理費となると余計にややこしくなります。
基本的には、部門別管理や生産性の指標を理解しておく必要が有ります。

一般的に、販売管理費とは、
給料
賞与
法定福利費
福利厚生費
広告宣伝費
接待交際費
旅費交通費
支払手数料
地代家賃
通信費
水道光熱費
保険料
減価償却費
租税公課
消耗品費
などです。

そして、販売管理費の中で、圧倒的に一番高い費用が、人件費です。
次いで、地代家賃や販売促進、水道光熱費などが続きます。

ですから、改正酒税法に関わる販売管理費で、重要なポイントとなるのが人件費です。
これを、酒類の販売において、どう理解しているかが、販売管理費の算定と、売価設定において非常に重要です。

単純に、全体の販売管理費を算定基準として、応用してはいけませんし、応用する必要もありません。
酒類の直接的な販売管理費は、他の食品全体と比べて、圧倒的に低いのです。


【以下資料、国税庁ホームページ『酒類の公正な取引基準』(案)についてより】 酒税1 酒税2
  その他詳しくお知りになりたい方は、以下のホームページ等の確認をお願いします。
  酒類の公正な取引に関する基準の取扱いについて(法令解釈通達)
  https://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/tsutatsu/kobetsu/kansetsu/170331/01.pdf
  酒類の公正な取引に関する基準を定める件
  https://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/kokuji/170331/pdf/01.pdf


酒類販売に関する販売管理費の算定方法について



販売管理費の算定方法で知っておきたいことが、人時売上高(人時生産性)と平均単価です。

スーパーマーケットの中で、人時売上高が最も高い部門は、言うまでもなくグロッサリー部門や日配部門です。
通常、生鮮部門に対して、2倍程度の生産性の数値になると思います。
逆に言うと、投入人時は半分で済むということです。

そして、グロサリーの平均販売単価に比べて、酒類のそれは、2.5~3倍程度になると思います。
仮に、平均単価が2.5倍とすると、酒類の投入人時は、1/2.5となりますから、仮にグロッサリー(酒類以外)が30,000円の人時売上高の店舗の場合、酒類の人時売上高はおおよそ75,000円にもなります。

あくまでもシミュレーションですが、月間売上高3000万円のグロサリーに置き換えて考えてみると、投入人時は、
3000万円÷3万円=1000人時
ということになります。

一方、酒類の売上高が同額の場合の投入人時は、
3000万円÷7.5万円=400人時
ということになるのです。
かなり低い投入人時で運営することが出来るのです。

更に、実際の補充作業や定番の発注作業などは、パート社員やアルバイトで可能ですから、教育訓練が行き届いたチームであれば、人件費は確実に低く抑えることが可能なのです。
是非、自店の投入人時を実地測定して、正確な酒類に掛かっている人件費の算定をしてみて下さい。

(※ここで出している数値は、あくまでもシミュレーションで大まかな数値ですので、正確な数値をお知りになりたい方は、会社(店舗)の実数をもとに算出して診てもらえばと思います。)


売場の生産性を高める努力



国税庁は、「情報提供に基づき調査し、基準に違反している業者には改善命令や業者名の公表、免許取消し等をすることが出来るようになる」ということをうたっています。 が、しかし、販売管理の前提となる具体的なデータを提示することが出来れば、何の問題もないのです。

「大型量販店が酒類を大量に仕入れ価格を抑え、低価格で販売することは問題無い」と言うことについても、その販売方法により、周囲の業者に影響を及ぼす可能性がある場合「規制の対象となる」ともうたわれてもいます。
また同じく、「大型量販店が集客のため、ビール等を安売りするという不当廉売が行われ、比較的小規模の酒店等の経営が圧迫されている現状」と言うことも、規制の対象となるようです。

要するに、フロントエンド(客寄せ)としての酒類の販売は、遣りにくくなるということは確かなようです。
ですから、低価格販売を実現するためには、作業改善とシステム全般の見直しを行い、生産性を向上させて、ローコスト・オペレーションを実現することが重要だと言えるでしょう。


業務改善を意識して行動しよう



そして、この機会を利用して、店舗全体のマーケティングやプロモーション全般を見直す機会ととらえてみては、如何でしょうか。

「酒は、楽しむもの」です。
価格以外にも、お客にベネフィット(得)をとどける方法は、幾らでも有ります。
美味しい酒は、日本中に有ります。それを、お客に届けることも重要な私たちの仕事です。

生産性アップとマーケティング力アップを考え、行動を変える『良い機会』にしてください。
仕事も、楽しくなります。

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